1804夏至の前後、ドイツで本格的な夏の始まりを告げるものの一つに菩提樹の香りがあります。日中、窓を開けると、なんともいえない、甘いけれども爽やかな香りが部屋の中に入ってきて、幸せな気持ちにしてくれます。ヨーロッパの菩提樹はセイヨウボダイジュ(シナノキ科)で、お釈迦様がその木の下で悟りを開いたと言われているインドボダイジュ(クワ科)とは種が違います。しかしヨーロッパの菩提樹も古くから神聖な木でした。キリスト教聖人の像の多くは菩提樹の幹から彫られています。また中央ヨーロッパの町の中心、裁判や集会を行った場所には菩提樹が多く植えられていました。町中に植えられた樹齢1000年を越える古木も多く知られています。シューベルト作曲の「リンデンバウム」は、「泉に沿いて茂る菩提樹」と歌われていますが、ウィルヘルム・ミューラーの詩を直訳すると「市門の前、泉のほとり、そこに1本の菩提樹が立っている」ということになります。この歌は、森の中の菩提樹を歌ったのではなく、中世の都市城郭の中に人工的に植えられた菩提樹でした。ハイデルベルクでも、城の庭園、旧市街中心の大学広場、ネッカーに架かる古い橋の前、そして多くの住宅の庭に菩提樹が植えられています。
菩提樹の葉に利尿作用があることは中世から知られていました。花部の薬効が確認されたのは比較的新しく、18世紀になってからのことでした。花部にはフラボノイド、精油、粘液質成分、サポニン、タンニンが含まれていて、のどの刺激を和らげ、去痰作用、発汗作用があります。そのため、花の部分のお茶が風邪の予防や咳が出るときに飲まれています。菩提樹の花をミックスしたハーブティはたくさん出回っていますが、菩提樹の花だけのお茶は癖のないあっさりとした風味です。さらに、精油を使った入浴剤もあります。それには神経過敏な状態のときにリラックスさせ、入眠を促す効果があるとされています。

ハイデルベルク、大学広場の菩提樹

菩提樹の花
 |